デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針抜粋(令和2年12月25日閣議決定)

2020年12月25日、IT総合戦略本部において、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定されました。

以下、関連資料から、マイナンバーカード、電子署名、電子証明書、登記に関連する箇所を抜粋しました。それぞれ普及の方向性と、所管庁と新設されるデジタル庁との役割分担が定められています。

令和3年2月の商業登記規則改正で、オンライン申請で使える電子証明書が商業登記電子証明書(普及率1%)以外も許容されることから、その普及は諦めたのかと思っていましたが、どうやらまだ奮闘する様子。

引用:令和2年12月25日 デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(別紙)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/decision.html

デジタル庁(仮称)の機能と業務
マイナンバー

官民の各種手続について、国民が添付書類を省略してオンラインでワンストップに行うことができ、行政からプッシュ型で各種サービスを受けられるなど、利便性と公平性の向上を図る。そのためデジタル庁がマイナンバー、マイナンバーカード、公的個人認証などのマイナンバー制度全般の企画立案を一元的に行う体制を構築し、市区町村等との連絡調整などの実施事務を担う総務省と連携し、マイナンバーカードの普及の加速化等を強力に推進する。また、地方公共団体情報システム機構(JLIS)の体制を国(デジタル庁及び総務省)の責任と関与の下で抜本的に強化する。

データ利活用

ベース・レジストリ(個人、法人、不動産などの社会の基本的なデータベース)の整備により、手続のワンスオンリー実現を図るため、デジタル庁は、法人番号など法人や個人を一意に特定し識別する ID 制度や、電子署名、商業登記電子証明書などの情報とその発信者の真正性などを保証する制度の企画立案を関係法の所管府省と共管しユーザー視点での改革と普及を担うとともに、制度所管府省、地方公共団体とともにベース・レジストリとして整備すべき情報の明確化とその整備を担う。

デジタル化に向けた課題の検討状況
マイナンバー

(1)現状と課題
マイナンバー制度は、国民が人生の様々な場面において官民の各種手続について添付書類を省略してオンラインでワンストップに行うことができるようにすることにより、国民の利便性の向上、行政事務の効率化、公平・公正な負担と給付の実現を図るため導入されている。
①内閣官房:マイナンバー制度全般の企画立案、総合調整。
②内閣府:マイナンバー制度全般の進捗管理・関係機関との調整、広報、マイナンバーの利用拡大の検討、マイナポータルの運用。
③総務省:マイナンバーカードに関する施策の推進、情報提供ネットワークシステムの設置・管理。
④各省庁:マイナンバーカードを利用した各種事業の推進、マイナンバーを活用した情報連携による添付書類の省略の推進。
上記に加えて、地方共同法人 J-LIS が、マイナンバーの通知やマイナンバーカードの発行に係る事務、関係システムの整備・運用を担っている。
また、マイナンバーカードについては、令和4年度末にはほぼ全国民に行き渡ることを目指し、カードの普及策を加速する必要があるが、以下の課題がある。
・ カードの利活用範囲の拡大(例:オンラインによる各種行政手続への活用、各種資格証のカードへの一体化)
・ 広報・普及啓発(例:健康保険証などの利用用途の拡大、誤解の払拭)
・ カード機能の高度化(例:スマホへの機能搭載、生体認証の活用、次期カード仕様の設計)

(2)見直しの方向性
① 基本的考え方
マイナンバー関連業務(マイナンバー、マイナンバーカード、公的個人認証)及びその基盤となっている住民基本台帳業務については、デジタル社会をつくる基盤としての制度的な業務の側面と、それ自体が住民に対するサービスという事務的な業務の側面がある。
そこで、デジタル社会構築に必要なマイナンバー関連業務について、基本方針の策定、制度の具体設計など企画立案、国その他の業務システムの統一的な管理を行う観点から、関連するシステム開発・管理やそれに関する予算の計上・配賦はデジタル庁が担い、こうした制度の運用として、市区町村等との連絡調整を含めた実施事務については総務省が行うことを基本として役割分担を整理する。
具体的には国の業務に関し、
(ⅰ)住民基本台帳に関する業務は市区町村業務の根幹であり、従来通り、企画立案機能を含め、総務省の下で行う。
(ⅱ)マイナンバーに関する業務に関し、マイナンバーの生成・付番、通知、利用範囲、特定個人情報の提供範囲の規定のうち、デジタル庁は企画立案を担い、総務省は実施事務を担うこととする。加えてデジタル庁は、情報提供ネットワークシステムの設置・管理、マイナポータルの設置・運用を担うこととする。
(ⅲ)マイナンバーカード(カード)に関する業務に関し、「カードの交付」、「カードの発行、失効管理」、「IC チップ空き領域の利活用」に関する企画立案はデジタル庁が、実施事務は総務省が担う。
(ⅳ)公的個人認証に関する業務に関し、「電子証明書の交付」、「電子証明書の発行、失効管理」、「電子証明書の失効情報の提供」に関する企画立案はデジタル庁が、その実施事務は総務省が行うこととする。なお、マイナンバーカードの交付等の事務とあわせ、市区町村が行う電子証明書関係の事務は合わせて「法定受託事務」とし、国の関与を明確化する。

データの利活用(基本的な考え方)

① 個人・団体を一意に特定し識別する機能(いわゆる ID)
デジタル社会の形成に当たっては、このような情報の活用の前提となる機能を、国民生活を支える社会基盤として整備することが重要であるが、個人・団体を一意に特定し識別する機能(いわゆる ID)に関しては、マイナンバー、法人番号や、(図書館)利用者番号、介護保険事務所番号などといった様々な IDが存在している。
これらの ID のうち、マイナンバーや法人番号といった網羅性や不変性の高い ID については、取引や行政手続を効率的に行うために重要であり、国民生活を支える社会基盤としてデジタル社会の形成に不可欠なものである。
この点、マイナンバーと法人番号については、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関が保有する個人・団体の情報が同一人の情報であることを確認する等のため、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」という。)で必要な措置が定められている。

② 情報の真正性等
オンラインによる様々な取引や行政手続がある中で、情報の発信者の真正性や、情報そのものの真正性、完全性等を保証することは、安全・安心なデジタル社会の形成に重要である。そのために、これまで、

・電子署名や電子委任状に関する法令の整備、
・商業登記電子証明書、
・法人共通認証基盤(GビズID)の整備・運用
の措置が行われてきたが、普及の途上にある。

③ 見直しの方向性について
①や②の措置等については、十分にその利用が普及していないところ、デジタル社会の形成に当たっては、普及を強力に進める必要がある。
特に、普及を加速するためには
・ マイナンバーや電子署名等を各府省等の手続や制度において利用できるよう各府省の手続や制度の改正を進めていくこと
・ マイナンバーや電子署名などの制度やその運用面の利便性(UI・UX)を高めるための改正を進めること

の両方を一体的に進めることが重要であり、制度の普及と制度自体の企画をデジタル庁が一体的に担うことが効果的であると考えられる。
これまでは、マイナンバーや電子署名などのデジタル基盤を担う制度とそれを利用する各府省の手続や制度の所掌がバラバラであり、相互の調整が不十分であったと考えられる。また、IT室はデジタル手続法等を所管し、各府省等の手続や制度のオンライン化や事業者による利活用促進等を働きかけてきたが、その権限も不十分であり、かつ、マイナンバーや電子署名などのデジタル基盤を担う制度側の企画にも十分な権限をもってこなかった。
そのため、今後は、マイナンバーや電子署名などのデジタル基盤を担う制度とそれを利用する各府省の手続や制度及び事業者への普及の両方をデジタル庁が所掌し、強力な権限をもって進めることが適切であると考えられる。
また、現在、ID と認証と電子証明書がそれぞれ別の制度(ID は法人番号、認証はGビズID、電子証明書は商業登記電子証明書)として提供されており、それらの制度を一体的に立案することの重要性が高まっていると考えられる。
加えて、例えば法人番号については Web-API 等の連携の仕組みについて、現状利用が進んでいるところではあるが、将来的に新しいデジタルテクノロジーがでてきたときに電子証明書等を含めて、ユーザーの利便性の向上のために制度運用を見直す必要がある。
このように、それぞれの制度の経緯や趣旨を踏まえ、全体を所管するものと制度企画部分を共管する等の対応が必要であり、この点を以下それぞれの制度について検討する。

デジタル庁統括による、法人番号、GビズID、商業登記電子証明書の一体化に期待

電子証明等(電子署名法)に係る整理について

① 現行制度
電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」という。)は、電子署名に関し、電磁的記録の真正の成立の推定や、一定の基準に適合する方式の電子署名について、その利用者の当人認証結果を他人に証明する業務である特定認証業務に関する認定の制度等について定めているものである。
これについて、総務省・法務省・経済産業省は、(ⅰ)電子署名の法的効果※1(真正な成立の推定)や(ⅱ)特定認証業務の認定等※2を規律する法律を所管している。

※1 民事訴訟法第 228 条第4項(私文書の成立の真正の推定)に相当する規定
※2 一部法務省を除く。

* 電子証明書(有効枚数)は約 35 万枚(2018 年度(平成 30 年度)末時点)

② 見直しの方向性
総務省・経済産業省に関して、(1)のとおり、電子署名法に基づく電子証明書を普及するためには、その普及と制度の企画をデジタル庁が一体的に担うことが効果的であること、総務省・経済産業省の関与はデジタル政策に関するものであること等を踏まえ、今後は、その両方をデジタル庁が強力な権限をもって進めることとし、総務省・経済産業省の権限はデジタル庁に移管することが適当である。
法務省に関しては、電子署名の法的効果に関する規律が民事訴訟法の私文書の成立の真正に関する規律と同様の効果を規定するものであることや、そのような効果を認めるにふさわしい電子署名はどのようなものかを政策的に判断するに当たっては、電子署名及び認証業務の制度全体を熟知している必要があることを踏まえると、現行のとおり、(ⅰ)及び(ⅱ)について法務大臣が主務大臣に含まれていることが適当である。

デジタル庁は公的な電子証明書だけでなく民間の電子証明書の普及も目指す。

電子証明等(電子委任状法)に係る整理について

① 現行制度
電子委任状の普及の促進に関する法律(以下「電子委任状法」という。)は、電子委任状取扱業務の認定等や、認定時における電気通信事業法の特例について定めているものである。
これについて、総務省と経済産業省は、電子委任状取扱業務の認定等を行い、総務省は、認定時における電気通信事業法の特例に係る審査を行っている。


② 見直しの方向性
総務省・経済産業省に関して、(1)のとおり、電子委任状法に基づく電子委任状を普及するためには、その普及と制度の企画をデジタル庁が一体的に担うことが効果的であること、総務省・経済産業省の関与はデジタル政策に関するものであること等を踏まえ、今後は、普及と制度の企画をデジタル庁が強力な権限をもって進めることとし、総務省・経済産業省の権限はデジタル庁に移管することが適当である。
なお、認定時における電気通信事業法の特例に係る審査については、電気通信業の発達、改善及び調整に関することを所管し、電気通信事業法を所管する総務省が行うことが適切であることから、引き続き総務省が担うことが適当である。

電子証明等(商業登記電子証明書)に係る整理について

① 現行制度
商業登記電子証明書※は、商業登記法第 12 条の2の規定に基づき、登記官が発行している。
※ 登記所が管理する登記情報に基づき,会社・法人の代表者等に対して、発行される電子証明書。証明の請求は、管轄の登記所を経由される。
これについて、法務省は
(ⅰ)電子証明書の発行申請等や、電子証明書の発行等に係る事務を行うという事務的な側面と、
(ⅱ)これに係る制度的な側面(企画立案)
という二つの側面を担っている。
* 電子証明書(有効枚数)は約3万枚(平成 30 年2月末時点。なお、平成 30 年末法人数は約 270 万社)

② 見直しの方向性
商業登記電子証明書は必ずしも普及しているとはいえないところ、商業登記電子証明書の普及を加速するためには、その普及と制度の企画をデジタル庁が一体的に担うことが効果的であり、その両方をデジタル庁が強力な権限をもって進める必要がある。
ただし、(ⅰ)に関しては、電子証明書の発行申請等は、印鑑が提出されている管轄登記所を経由して行われていること※1、また、電子証明書の発行等に係る事務として、登記官が電子証明書の証明を行っていること※2を踏まえると、デジタル庁が行うことは困難である。
(ⅱ)に関しては、電子証明書の発行等に係る制度設計については、商業登記法に基づく商業登記制度全般と整合性を図った上で行う必要がある※3。そのため、(ⅱ)については、法務省も引き続き所掌することが必要である。
以上を踏まえると、(ⅰ)については、法務省の所掌とし、(ⅱ)については、デジタル庁と法務省の共管とすることが適当である。


※1 電子証明書の発行申請等は、印鑑が提出されている管轄登記所を経由して行うこととされているところ、これは、電子証明書の発行申請等における本人確認には登記事項や提出印鑑との照合が不可欠であるためである。こうした現行制度を前提とした場合、電子証明書の発行申請等に係る事務は、登記事務そのものと密接不可分である。
※2 電子証明書の発行等に係る事務として、登記官が電子証明書の証明を行っている。登記官はその職務の執行に当たっては、自己の権限において独立して行うものであり、また、個々の登記に関する事項について、行政組織法上の指揮命令権を持つ法務局等の長の指揮にも服さない存在であるところ、このような登記事務を責任もって担う登記官が電子証明書の内容を電子署名により証明すること等によって、商業登記法に基づく電子証明書を保証しているものと考えられる。
※3 商業登記の機能を十分発揮するためには、商業登記は常に正確・明瞭・迅速であることが要求されているところ、このような要求は、商業登記に基づく電子証明書にも求められるものであり、仮に電子証明書の発行の手段等によって、電子証明書の正確・明瞭・迅速性が損なわれる可能性がある場合は、商業登記が果たしてきた機能が損なわれる可能性がある。

商業登記電子証明書の普及率はたったの1%(平成30年)

ベース・レジストリ

① 基本的な考え方
現在、個人、法人(法人登記)や不動産(不動産登記)などの情報は、各制度所管府省や地方公共団体がそれぞれ管理している。こうした情報を他の行政手続等においても参照可能なものとすることができれば、行政手続における住民の大幅な利便性向上(一度提出した情報は二度と提出しないワンスオンリー)、給付金の迅速な支給や行政機関におけるコスト削減が期待できる。
そのため、マイナンバー制度による情報連携などの既存のインフラも十分活用しながら、制度所管府省や地方公共団体が管理する個人、法人、不動産等の情報を適切なアクセスコントロールの下で他の行政機関が参照できるようにしたベース・レジストリを整備するとともに、これらベース・レジストリの情報を連携させるシステムを整備することが重要である。
(ベース・レジストリは米国、英国、オランダ、デンマーク、インド、エストニア等が整備している。例えば英国、オランダ及びデンマークは、個人、法人、土地、不動産、住所等をベース・レジストリの対象としている。)
そこで、
(ⅰ)デジタル庁は、改正IT基本法に基づく重点計画において、ベース・レジストリの整備を行う対象やその整備の方針を定め、当該方針のもとで制度所管府省、地方公共団体と共にベース・レジストリを整備する。また、それらベース・レジストリを連携させるシステムを整備する。
(ⅱ)制度所管府省や地方公共団体は、デジタル庁と共にベース・レジストリを整備する。
ベース・レジストリについての方針の策定及び整備にあたっては、情報の管理及び連携に関する各制度及びシステムの見直しの必要性について十分に精査する。また、法令が制度所管府省や地方公共団体に対象情報の管理を求める本来の目的と比較衡量の上で、根拠となる作用法の必要性について検討する必要がある。

② 見直しの方向性
(ⅰ)デジタル庁は、制度所管府省と連携して、重点計画においてベース・レジストリの考え方、対象及びその整備についての方針を定める。
・ ベース・レジストリに含むべき個人、法人、不動産等の情報を特定
・ ベース・レジストリ及びベース・レジストリの情報を連携させるシステムの整備に関する計画の策定
(ⅱ)デジタル庁は、ベース・レジストリを整備するために必要となる予算を一元的に要求し、制度所管府省とともに執行する(政府情報システムにおける②デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システムに相当)。
・ 制度所管府省や地方公共団体が有する情報を他の行政機関等において利用できるようにするため、必要な法整備、データの標準化(データの様式を統一すること)やデータクレンジング(定められた様式にデータを変換すること)の実施
・ 情報を管理するシステムについて、当該情報を他の行政機関等に使用させるために必要となる API の提供等の改修の実施
・ 情報へのアクセス権等についての運用ルールの策定・実装
・ セキュリティや個人情報保護の確立
・ 情報の利用を妨げる制度の見直し
(ⅲ)デジタル庁は、制度所管府省や地方公共団体が有する情報を連携させるために必要となるデータ連携基盤システムを整備及び管理する(政府情報システムにおける①デジタル庁システムに相当)。
・ 制度所管府省や地方公共団体が管理する情報に関するアクセスコントロールや API 等を含めたシステムの整備及び管理
(ⅳ)制度所管府省は、引き続き制度を所管し(制度はデジタル庁に移管しない。)、当該制度のもとで情報を管理する。その際、制度所管府省は・ デジタル庁が確保した予算を活用し、同庁とともにデータの標準化及び情報を管理するシステムの改修を実施
・ 地方公共団体が管理する情報に関し、デジタル庁が定める重点計画に即したデータの標準化やシステム改修が進むことを促すための取組を実施
・ デジタル庁とともに情報の利用ルールを策定

ワンスオンリー歓迎、ベース・レジストリ最高。実現されれば、例えば、相続登記で戸籍を集める必要がなくなるかもしれない。

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