改正司法書士法施行につき概観と雑感

2020年8月1日、改正された司法書士法が施行されました。
主要な点は、以下のとおりです。

1.使命の明確化
2.懲戒手続きの見直し
3.一人法人が可能に

司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律について(法務省)http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00381.html

1.使命の明確化

旧条文
(目的)
第一条 この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もつて国民の権利の保護に寄与することを目的とする。

新条文
(司法書士の使命)
第一条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。

背景と雑感

2010年(平成22年)06月25日 日本司法書士会連合会 第72回定時総会決議

1.使命規定の創設
(理由)
 法は目的規定及び職責規定をもって、司法書士の使命の自覚を促す趣旨が含意しているとされている。しかし、目的規定はあくまでも「司法書士制度」の目的であり、「司法書士」の使命ではない。また、平成14年改正にあたっての参議院法務委員会においても同趣旨の答弁がなされている。一方、司法書士は司法書士倫理前文において、自らの使命を自覚し、その達成にむかって自律的な倫理規範を定めている。これらから、法文上、使命が含意されているだけではなく、明らかにすることに問題はないと考えられる。また、制度の将来像を描くにあたり、早期に自立的な使命規定を明らかにすることが必要であると考える。

司法書士法の抜本的な改正実現を求め~(日本司法書士会連合会)https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/info_disclosure/resolution/1400/

使命規定の創設は、関連団体の10年来の宿願だったようです何よりです。

 私たち司法書士は、この法改正によって、法律事務の専門家になった訳でも、新たな使命を帯びた訳でもありません。

 司法書士はこれまでも、国民の皆様の信頼と期待に応えるために、司法書士の使命が国民の権利の擁護と公正な社会の実現にあることを自覚し、その達成に努めてきました(司法書士倫理第1条)。従来の登記業務、裁判業務のみならず、簡裁訴訟代理等関係業務、成年後見業務、財産管理業務などに加え、近年、自然災害における復興支援や空き家・所有者不明土地問題に対処していることはその顕れであり、この法改正は、これまでの司法書士の職務が、法律上の文言に結実したものであると考えています。

会長声明(日本司法書士会連合会)https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/info_disclosure/statement/51207/

とくに何かが変わるわけではなく、今までどおり職務を粛々と遂行していくだけです。

ものぐさな私としては、司法書士って何ぞ?と問われたときに、法律事務の専門家だと端的に応答できるようになった点が助かります。

2.懲戒手続きの見直し

・懲戒権者が法務局長から法務大臣へ
・懲戒の除斥期間の創設(懲戒事由があったときから7年)
・戒告処分の聴聞を保証・清算結了法人への懲戒が可能に

旧条文

新条文

(司法書士に対する懲戒)
第四十七条 司法書士がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は、当該司法書士に対し、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 業務の禁止

(司法書士に対する懲戒)
第四十七条 司法書士がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、法務大臣は、当該司法書士に対し、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 業務の禁止

(司法書士法人に対する懲戒)
第四十八条 司法書士法人がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、その主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は、当該司法書士法人に対し、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の全部又は一部の停止
三 解散

2 司法書士法人がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、その従たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長(前項に規定するものを除く。)は、当該司法書士法人に対し、次に掲げる処分をすることができる。ただし、当該違反が当該従たる事務所に関するものであるときに限る。
一 戒告
二 当該法務局又は地方法務局の管轄区域内にある当該司法書士法人の事務所についての二年以内の業務の全部又は一部の停止

(司法書士法人に対する懲戒)
第四十八条 司法書士法人がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは、法務大臣は、当該司法書士法人に対し、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の全部又は一部の停止
三 解散

2 前項の規定による処分の手続に付された司法書士法人は、清算が結了した後においても、この章の規定の適用については、当該手続が結了するまで、なお存続するものとみなす。

(懲戒の手続)
第四十九条 何人も、司法書士又は司法書士法人にこの法律又はこの法律に基づく命令に違反する事実があると思料するときは、当該司法書士又は当該司法書士法人の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に対し、当該事実を通知し、適当な措置をとることを求めることができる。

2 前項の規定による通知があつたときは、同項の法務局又は地方法務局の長は、通知された事実について必要な調査をしなければならない。

3 法務局又は地方法務局の長は、第四十七条第二号又は前条第一項第二号若しくは第二項第二号の処分をしようとするときは、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。

4 前項に規定する処分又は第四十七条第三号若しくは前条第一項第三号の処分に係る行政手続法第十五条第一項の通知は、聴聞の期日の一週間前までにしなければならない。

5 前項の聴聞の期日における審理は、当該司法書士又は当該司法書士法人から請求があつたときは、公開により行わなければならない。

(懲戒の手続)
第四十九条 何人も、司法書士又は司法書士法人にこの法律又はこの法律に基づく命令に違反する事実があると思料するときは、法務大臣に対し、当該事実を通知し、適当な措置をとることを求めることができる。

2 前項の規定による通知があつたときは、法務大臣は、通知された事実について必要な調査をしなければならない。

3 法務大臣は、第四十七条第一号若しくは第二号又は前条第一項第一号若しくは第二号に掲げる処分をしようとするときは、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。

4 前項に規定する処分又は第四十七条第三号若しくは前条第一項第三号の処分に係る行政手続法第十五条第一項の通知は、聴聞の期日の一週間前までにしなければならない。

5 前項の聴聞の期日における審理は、当該司法書士又は当該司法書士法人から請求があつたときは、公開により行わなければならない。

(登録取消しの制限等)
第五十条 法務局又は地方法務局の長は、司法書士に対して第四十七条第二号又は第三号に掲げる処分をしようとする場合においては、行政手続法第十五条第一項の通知を発送し、又は同条第三項前段の掲示をした後直ちに日本司法書士会連合会にその旨を通告しなければならない。

2 日本司法書士会連合会は、司法書士について前項の通告を受けた場合においては、法務局又は地方法務局の長から第四十七条第二号又は第三号に掲げる処分の手続が結了した旨の通知を受けるまでは、当該司法書士について第十五条第一項第一号又は第十六条第一項各号の規定による登録の取消しをすることができない。

(登録取消しの制限等)
第五十条 法務大臣は、司法書士に対して第四十七条各号に掲げる処分をしようとする場合においては、行政手続法第十五条第一項の通知を発送し、又は同条第三項前段の掲示をした後直ちに日本司法書士会連合会にその旨を通告しなければならない。

2 日本司法書士会連合会は、司法書士について前項の通告を受けた場合においては、法務大臣から第四十七条各号に掲げる処分の手続が結了した旨の通知を受けるまでは、当該司法書士について第十五条第一項第一号又は第十六条第一項各号の規定による登録の取消しをすることができない。

(新設)

(除斥期間)
第五十条の二 懲戒の事由があつたときから七年を経過したときは、第四十七条又は第四十八条第一項の規定による処分の手続を開始することができない。

(懲戒処分の公告)
第五十一条 法務局又は地方法務局の長は、第四十七条又は第四十八条の規定により処分をしたときは、遅滞なく、その旨を官報をもつて公告しなければならない。

(懲戒処分の公告)
第五十一条 法務大臣は、第四十七条又は第四十八条第一項の規定により処分をしたときは、遅滞なく、その旨を官報をもつて公告しなければならない。

法務局等の長に対する報告義務)
第六十条 司法書士会は、所属の会員が、この法律又はこの法律に基づく命令に違反すると思料するときは、その旨を、その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に報告しなければならない。

法務大臣に対する報告義務)
第六十条 司法書士会は、所属の会員が、この法律又はこの法律に基づく命令に違反すると思料するときは、その旨を、法務大臣に報告しなければならない。

(司法書士及び司法書士法人に関する規定の準用)
第七十条 第二十一条の規定は協会の業務について、第四十八条、第四十九条及び第五十一条の規定は協会に対する懲戒について、それぞれ準用する。

(司法書士及び司法書士法人に関する規定の準用)
第七十条 第二十一条の規定は協会の業務について、第四十八条第一項、第四十九条及び第五十一条の規定は協会に対する懲戒について、それぞれ準用する。この場合において、第四十八条第一項、第四十九条第一項から第三項まで及び第五十一条中「法務大臣」とあるのは、「第六十九条の二第一項に規定する法務局又は地方法務局の長」と読み替えるものとする。

(新設)

(権限の委任)
第七十一条の二 この法律に規定する法務大臣の権限は、法務省令で定めるところにより、法務局又は地方法務局の長に委任することができる。

背景と雑感

法施行規則(以下、「規則」という)において領収書の保存義務期間は3年(規則第29条)、事件簿の保存義務期間は5年(規則第30条)と定められている。また、兵庫県司法書士会会則(以下、「会則」という)において本人確認記録の保存義務期間は10年(会則第99条の2)とされている。そうすると、懲戒請求された事案が、これらの保存義務期間より以前のものであるような場合、これに対し書類等をもって弁明することは著しく困難なものとならざるをえない。すなわち、現行制度を前提としながら、それ以前の事由により懲戒がなされていることは、制度を不安定なものとすることに他ならない。制度の安定は国民の権利擁護に資するものであることから、期間について検討し、早期に懲戒請求における除斥期間を創設する必要があると考える。

司法書士法の抜本的な改正実現を求め~(日本司法書士会連合会)https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/info_disclosure/resolution/1400/

除斥期間の設置自体は喜ばしいことですが、弁護士の除斥期間が三年であることに比べて、七年という根拠の不明瞭な長期間とされたことには、わだかまりが残ります。

3.一人法人が可能に

旧条文

(設立の手続)
第三十二条 司法書士法人を設立するには、その社員となろうとする司法書士が、共同して定款を定めなければならない。

2 会社法(平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項の規定は、司法書士法人の定款について準用する。

3 定款には、少なくとも次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的
二 名称
三 主たる事務所及び従たる事務所の所在地
四 社員の氏名、住所及び第三条第二項に規定する司法書士であるか否かの別
五 社員の出資に関する事項

新条文

(設立の手続)
第三十二条 司法書士法人を設立するには、その社員となろうとする司法書士が、<削除>定款を定めなければならない。

2 会社法(平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項の規定は、司法書士法人の定款について準用する。

3 定款には、少なくとも次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的
二 名称
三 主たる事務所及び従たる事務所の所在地
四 社員の氏名、住所及び第三条第二項に規定する司法書士であるか否かの別
五 社員の出資に関する事項

(解散)
第四十四条 司法書士法人は、次に掲げる理由によつて解散する。
一 定款に定める理由の発生
二 総社員の同意
三 他の司法書士法人との合併
四 破産手続開始の決定
五 解散を命ずる裁判

(解散)
第四十四条 司法書士法人は、次に掲げる理由によつて解散する。
一 定款に定める理由の発生
二 総社員の同意
三 他の司法書士法人との合併
四 破産手続開始の決定
五 解散を命ずる裁判
六 第四十八条第一項第三号の規定による解散の処分
七 社員の欠亡

(解散)
第四十四条 司法書士法人は、次に掲げる理由によつて解散する。
一 定款に定める理由の発生
二 総社員の同意
三 他の司法書士法人との合併
四 破産手続開始の決定
五 解散を命ずる裁判

2 司法書士法人は、前項の規定による場合のほか、社員が一人になり、そのなつた日から引き続き六月間その社員が二人以上にならなかつた場合においても、その六月を経過した時に解散する。

 司法書士法人は、第一項第三号の事由以外の事由により解散したときは、解散の日から二週間以内に、その旨を、主たる事務所の所在地の司法書士会及び日本司法書士会連合会に届け出なければならない。

 司法書士法人の清算人は、司法書士でなければならない。

(解散)
第四十四条 司法書士法人は、次に掲げる理由によつて解散する。
一 定款に定める理由の発生
二 総社員の同意
三 他の司法書士法人との合併
四 破産手続開始の決定
五 解散を命ずる裁判
六 第四十八条第一項第三号の規定による解散の処分
七 社員の欠亡

 司法書士法人は、前項第三号の事由以外の事由により解散したときは、解散の日から二週間以内に、その旨を、主たる事務所の所在地の司法書士会及び日本司法書士会連合会に届け出なければならない。

 司法書士法人の清算人は、司法書士でなければならない。

(新設)

(司法書士法人の継続)
第四十四条の二 司法書士法人の清算人は、社員の死亡により前条第一項第七号に該当するに至つた場合に限り、当該社員の相続人(第四十六条第三項において準用する会社法第六百七十五条において準用する同法第六百八条第五項の規定により社員の権利を行使する者が定められている場合にはその者)の同意を得て、新たに社員を加入させて司法書士法人を継続することができる。

社員が二人以上でなければ司法書士法人を設立できず、また、社員が一人になった場合には同法人を解散せねばならないという意味不明な規定がなくなったのは喜ばしいことです。

ただ、法人化すると、司法書士会の会費を法人でも個人でも支払い続けなければならないのは相変わらずのネックです。

(会費の金額) 
2 会費は、次に掲げる額とする。
 (1) 司法書士会員 月額金17,200円 ただし、平成30年度から平成32年度までは、月額金17,700円とする。
(2) 第5条第3項第1号の法人会員 月額金17,200円
(3) 第5条第3項第2号の法人会員 月額金14,700円

東京司法書士会会則(別表第1)

会費支払いも含めて、売上がどの程度から法人化すべきかは折に触れて検討してみたい。

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