令和3年2月15日に施行される商業登記法第20条削除(印鑑届出義務廃止)に伴い、商業登記規則の改正案が発表されました。
(法務省)商業登記規則等の一部を改正する省令案の概要 より抜粋
あくまで案であるものの、その内容は革新的です(商業登記規則第102条第6項の削除)。
商業登記の完全オンライン化の癌であった法務局発行の「商業登記電子証明書」の限定が緩和され、申請書・委任状は「マイナンバーカード」による電子署名でも許容されることとなり、添付書面は「クラウドサイン」などの法務大臣が認める電子署名サービスのみで足りることになります。以下、図表に簡潔にまとめました。
なお、下記はあくまで改正案の内容を元にしており、実際に交付される法案とは異なることがあります。
現状(オンライン商業登記申請で利用できる電子証明書)
本人申請の場合
申請書 | 添付書面 | |
---|---|---|
印鑑提出者 | それ以外の者 | |
102条3項1号 (商業登記電子証明書) | 102条3項1号 (商業登記電子証明書) | 102条5項2号(≒4項各号) |
⇒4項1号(=3項各号) | ||
3項2号(マイナンバーカード)*1 | ||
3項3号(セコムパスポートなど)*2 | ||
⇒4項2号(クラウドサインなど)*3 | ||
⇒指定公証人電子証明書 |
代理申請の場合
申請書 | 添付書面(委任状除く) | 委任状 | |
---|---|---|---|
印鑑提出者 | それ以外の者 | ||
102条4項1号(=3項各号) | 102条3項1号 (商業登記 電子証明書) | 102条5項2号(≒4項各号) | 102条3項1号 (商業登記 電子証明書) |
3項1号(商業登記電子証明書) | ⇒4項1号(=3項各号) | ||
3項2号(マイナンバーカード)*1 | 3項2号(マイナンバーカード)*1 | ||
3項3号(セコムパスポート)*2 | 3項3号(セコムパスポートなど)*2 | ||
⇒4項2号(クラウドサインなど)*3 | |||
⇒指定公証人電子証明書 |
現状の課題
1.代表者(印鑑提出者)が作成した書面への電子署名は、法務局が発行する商業登記電子証明書での署名しか手段がない(発行費用がかかり、有効期限があるうえ、取得の手段は書面のみで面倒)
2.マイナンバーカードでの電子署名や「クラウドサイン」などのリモート・クラウド型電子署名が利用できるのは、代表者以外が作成した添付書面に限定されている(書面であれば認め印で済むようなもの)
例えば、取締役会議事録は、出席者に代表者もいる限り、「クラウドサイン」で電子署名しても、さらに商業登記電子証明書での電子署名も要し、二重の手間がかかります。
以上の課題があるため、商業登記のオンライン申請はシステム上可能とはいえ、本人申請の場合には申請書も添付書類もほぼ書面にて提出されており、代理申請の場合でも申請書こそオンラインで出せど添付書類は書面での提出が大半であります。一向にオンライン化が進んでいません。
商業登記規則改正案(オンライン商業登記申請で利用できる電子証明書)
本人申請の場合
申請書 | 添付書面 |
---|---|
102条4項1号(=3項各号) | 102条5項2号(≒4項各号) |
3項1号(商業登記電子証明書) | ⇒4項1号(=3項各号) |
3項2号(マイナンバーカード)*1 | 3項1号(商業登記電子証明書) |
3項3号(セコムパスポート for G-ID) | 3項2号(マイナンバーカード)*1 |
3項3号(セコムパスポートなど)*2 | |
⇒4項2号(クラウドサインなど)*3 | |
⇒指定公証人電子証明書 |
代理申請の場合
申請書 | 添付書面(委任状除く) | 委任状 |
---|---|---|
102条4項1号(=3項各号) | 102条5項2号(≒4項各号) | 102条5項1号(=3項各号) |
3項1号(商業登記電子証明書) | ⇒4項1号(=3項各号) | 3項1号(商業登記電子証明書) |
3項2号(マイナンバーカード)*1 | 3項1号(商業登記電子証明書) | 3項2号(マイナンバーカード)*1 |
3項3号(セコムパスポートなど)*2 | 3項2号(マイナンバーカード)*1 | 3項3号(セコムパスポート for G-ID) |
3項3号(セコムパスポートなど)*2 | ||
⇒4項2号(クラウドサインなど)*3 | ||
⇒指定公証人電子証明書 |
改正点:
1.申請書・委任状で使用できるものは、商業登記電子証明書だけなく、公的個人認証サービス(マイナンバーカード)・特定認証業務電子証明書(下掲)も許容される(クラウドサインなど法務大臣指定のものは利用できない)
2.添付書面(委任状以外)で使用できるものは、印鑑提出者かそれ以外かの区別がなくなり、印鑑提出者であっても、公的個人認証サービス(マイナンバーカード)・特定認証業務電子証明書(セコムパスポートなど)に加え、クラウドサインなど法務大臣指定のものも許容される
「クラウドサイン」のみでのオンライン申請は叶わぬものの、マイナンバーカードがあれば、商業登記電子証明書不要でオンライン申請が完結できるようになります。また、電子入札等の関係で「セコムパスポート」など特定認証業務電子証明書を使用している企業はそのまま完全オンラインに移行ができます。
これらの改正により、長らく低迷していた商業登記の本人申請率・オンライン申請率は間違いなく伸びていくことでしょう。万々歳です。しかしそれは、代理申請を生業とする司法書士は冬の時代に入ることを意味します。士業は、国民の不便さという既得権益に胡座をかいていれば堕落する一方です。DX化による不便さの解消は広く商機と捉え、登記市場自体を拡大させていく視座を獲得していかねばならないでしょう。
前提・注記:
・表中の条文は、商業登記規則です
・申請人等につき商業登記規則第33条の3第1号から第3号に掲げる事項(代表権の制限の定めがある)には該当しないものとします
・表中「商業登記電子証明書」とは、商業登記規則第33条の8第2項に規定する電子証明書を指します
*1 表中「マイナンバーカード」とは、公的個人認証サービス電子証明書(電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律第3条第1項)を指し、マイナンバーカードに格納された電子証明書を意味します
*2 表中「セコムパスポートなど」とは、特定認証業務電子証明書(電子署名法第4条第1項の認定を受けた事業者が発行する電子証明書)のうち、法務大臣の定める以下のものを指します(令和3年1月27日時点)
「セコムパスポート for G-ID」「電子認証サービス(e-Probatio PS2)」「TDB電子認証サービスTypeA」「AOSignサービスG2」
*3 表中「クラウドサインなど」とは、法務大臣の定めるものであって以下を指します(令和3年2月9日時点):
1.「Cybertrust iTrust Signature Certification Authority」(サイバートラスト株式会社)
▶クラウドサイン(弁護士ドットコム株式会社) ▶Great Sign(株式会社TREASURY)
2.「セコムパスポート for Public ID」(セコムトラストシステムズ株式会社)
3.「DocuSign Cloud Signing CA-SI1」(ドキュサイン・ジャパン株式会社)
▶EU Advanced(ドキュサイン・ジャパン株式会社)
4.「Intesi Group Advanced Cloud Signature CA」(INTESI GROUP S.p.A.)
▶Adobe Sign(アドビ株式会社)
5.「GlobalSign GCC R6 AATL CA 2020」(GMOグローバルサイン株式会社)
▶GMO電子印鑑Agree(GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社)
▶WAN-Sign(株式会社ワンビシアーカイブズ)
▶クラウド契約管理Sign(ラディックス株式会社)
▶OneSpan Sign(OneSpan Japan株式会社)※氏名を確認できるもの
ただし、代表取締役の就任承諾書やその選定に係る議事録等(商業登記規則第61条第4項~第6項)は、「クラウドサインなど」の電子署名を使用することはできないとされ、「商業登記電子証明書」「マイナンバーカード」「特定認証業務電子証明書」での電子署名が必要とされます。
参考:(法務省) 商業・法人登記のオンライン申請について http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html#37