取締役報酬の株式・新株予約権の特則/株式交付/新株予約権登記事項の見直し/取締役欠格条項削除等に係る商業登記の取扱い(「令和3年1月29日法務省民商第14号通達」抜粋)

会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)〔令和3年1月29日付法務省民商第14号〕が発出されました。重要部分を抜粋します(適宜表現は簡素化させています)。

電子証明書・押印規定の見直し等に関する通達についてはこちらの記事を御覧ください。
関連記事▶商業・法人登記事務の取扱い(「令和3年1月29日法務省民商第10号通達」抜粋)

なお、改正会社法は令和3年3月1日から施行されます。(以下「法」は改正会社法を指します)

第1 取締役の報酬等である株式及び新株予約権に関する特則

上場会社の会社の取締役の報酬等である株式に関する特則

概要

上場会社*が、取締役又は執行役の報酬等として、株式の発行又は自己株式の処分をするときは、募集株式と引換えにする金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないこととされた(法202条の2第1項前段、第3項)。

*上場会社:金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社

(筆者注:旧法下では株式を無償で発行することは認められておらず、取締役の報酬等として株式を交付するには、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、報酬支払請求権を現物出資させるという迂遠で技巧的な手法によって株式を交付させていました。本改正により、上場会社に限って例外が認められることになります。なお、監査役や従業員への付与は対象外です)

なお、募集株式の払込金額又はその算定方法を定めることを要しないため、払込金額が特に有利な金額である場合における株主総会の特別決議(法201条1項、199条2項、3項、309条2項5号)を要しない。

登記の期間

事後交付型(株式割当前に取締役が役務を提供):割当日から2週間以内(法915条1項)
事前交付型(株式割当後に取締役が役務を提供):株主資本変動日(事業年度末日)から2週間以内
(同条同項)

登記すべき事項

発行済み株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数、資本金の額(増加する場合のみ)並びに変更年月日

(筆者注:なお、増加する資本金の額については、改正会社計算規則42条の2、42条の3に則り算出します。)

添付書面

1.法361条1項3号に係る定款or株主総会議事録及び株主リストor報酬委員会の決定書面
2.募集事項の決定に係る取締役会議事録
3.募集株式の引受けの申込み又は総数引受契約書
4.割当ての決定又は総数引受契約承認の取締役会議事録
5.資本金計上証明書(資本金の額が増加する場合)

上場会社であることについての証明は不要(登記記録等から明らかであるため)

登録免許税

資本金増加せず▷3万円
資本金増加する▷資本金額の1000分の7(3万円未満は3万円)
(免許税別表第一24号(1)ツ・二)

上場会社の会社の取締役の報酬等である新株予約権に関する特則

概要

上場会社が、取締役又は執行役の報酬等として又は取締役等の報酬等をもってする払込みと引換えに当該株式会社の新株予約権の発行をするときは、当該新株予約権の行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないこととされた(法236条3項、4項)。

(筆者注:旧法下では、新株予約権は、行使に際して必ず財産の出資をしなければならないこととされていましたが(法236条1項2号)、上場会社に限って例外が認められることになります。なお、監査役や従業員への付与は対象外です。)

登記期間

割当日から2週間以内(法915条1項)

登記すべき事項

1.通常の新株予約権の登記事項(法236条1項2号「新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」除く)
2.取締役の報酬等として又は取締役の報酬等をもってする払込みと引換えに当該新株予約権を発行するものであり、当該新株予約権の行使に際してする金銭の払込み又は第1項第3号の財産の給付を要しない旨(法911条3項12号ハ、236条3項1号)
3.定款又は株主総会の決議による第361条第1項第4号又は第5号ロに掲げる事項についての定めに係る取締役(取締役であった者を含む。)以外の者は、当該新株予約権を行使することができない旨(法911条3項12号ハ、236条3項2号)
4.新株予約権の発行年月日

添付書面

1.法361条1項4号に係る定款or株主総会議事録及び株主リストor報酬委員会の決定書面
2.募集事項の決定に係る取締役会議事録
3.募集新株予約権の引受けの申込み証or総数引受契約書
4.(取締役等の報酬等をもってする払込みと引換えに新株予約権を発行する場合)払込み(現物給付、債権相殺を含む)があったことを証する書面
5.(譲渡制限株式を目的とする新株予約権or譲渡制限新株予約権の場合)割当ての決定or総数引受契約承認の取締役会議事録

上場会社であることについての証明は不要(登記記録等から明らかであるため)

登録免許税

9万円(免許税別表第一24号(1)ヌ))

第2 株式交付制度

概要

株式交付とは、株式会社(A社)が他の株式会社(B社)をその子会社*とするために当該他の株式会社(B社)の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人(B社の株主)に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(法第2条32号の2)。

*他の株式会社の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が100分の50を超えている場合における当該他の株式会社に限る(会社規4条の2、3条3項1号)。

(筆者注:株式交換制度は対象会社の株式を100%取得して完全子会社とする場合にしか利用できず使い勝手が悪かったため、株式を対価とする買収をより円滑に行える制度が実務界から求められていました。)

なお、清算株式会社については、株式交付に関する規定は適用されない(法509条1項3号)。

登記期間

株式交付の効力発生日から2週間以内(法915条1項)

登記すべき事項

登記事項に変更が生じるのは株式交付親会社のみ、株式交付子会社に登記事項に変更は生じない。

1.発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数
2.資本金の額
3.(株式交付子会社の株式の譲渡人に新株予約権発行の場合)新株予約権に関する登記事項
4.変更年月日

なお、株式交付子会社の株式の対価として株式交付親会社の自己株式を交付する場合には、登記すべき事項の変更が生じない。

添付書面

1.株式交付計画書
(効力日変更した場合は、取締役一致書面or取締役会議事録)
2.株式譲渡しの申込み又は株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の総数の譲渡しを行う契約を証する書面
3.株式交付計画の承認に係る株主総会議事録及び株主リスト(簡易株式交付の場合は、取締役一致書面or取締役会議事録)
4.(簡易株式交付の場合は)該当することを証する書面(反対株主がある場合は一定数未満である証明書を含む)
5.債権者保護手続き関連書面(異議あり債権者がある場合は、弁済・担保・信託or株式交付しても害するおそれがない証明書含む)
6.資本金計上証明書

登録免許税

増加資本金額の1000分の7(3万円未満は3万円)
発行済株式総数の変更登記につき、登録免許税を別納する必要はない。
(免許税別表第一24号(1)二)

第3 新株予約権に関する登記事項の見直し

概要

新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととするとき以外のときは、募集事項として、募集新株予約権の払込金額又はその算定方法を定めなければならないところ、登記すべき事項としては、募集新株予約権の払込募集新株予約権の払込み金額又は登記申請時までに払込金額が確定しないときは、当該算定方法を登記しなければならないこととされた(法911条3項12号へ)。

(筆者注:①登記申請時までに払込金額が確定していれば、その払込金額を登記し、②そうでない場合に限り、算定方法を登記するというもの。改正の背景として、払込金額の算定方法はブラック・ショールズ・モデルがよく用いられますが、その登記が煩雑で申請人の負担となっているため、登記申請時までに払込金額が確定すればそれを登記すれば足りるとしました。)

添付書面

改正前から変更はない。なお、算定方法を登記する場合に、払込金額が確定しないことにつき上申書等の添付を要しない。

経過措置

改正法の施行(令和3年3月1日)前に登記申請されたものは、従前の例による(改正法附則9条)。

第4 取締役等の欠格条項の削除

概要

欠格条項が削除され、成年被後見人及び成年被保佐人は、取締役、監査役、執行役、清算人、設立時取締役及び設立時監査役になることができることとされた(旧法331条1項2号削除)。

(筆者注:成年被後見人・被保佐人であることを理由に不当に差別されないことを図るべく、約180の法律の欠格条項を一括改正する「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」施行による措置の一環)

成年被後見人が取締役等に就任した場合

添付書面

1.成年後見人の就任承諾書
2.成年後見登記事項証明書(商登規61条7項の本人確認書面を兼ねる)
3.成年被後見人の同意書(後見監督人があるときは後見監督人の同意書も)
4.成年後見人の個人印鑑証明書(取締役会非設置の場合は取締役就任、設置の場合は代表取締役就任のとき)

被保佐人が就任した場合

(被保佐人が就任承諾したとき)
添付書面

1.被保佐人の就任承諾書
2.保佐人の同意書
3.被保佐人の個人印鑑証明書(取締役会非設置の場合は取締役就任、設置の場合は代表取締役就任のとき)
4.被保佐人の本人確認証明書(3.を添付したときは不要)

(保佐人が就任承諾したとき)
添付書面

1.保佐人の就任承諾書
2.被保佐人の後見登記事項証明書or代理権を付与する旨の審判に係る審判書
3.被保佐人の同意書
4.保佐人の個人印鑑証明書
5.被保佐人の本人確認証明書(2.の登記事項証明書を添付したときは不要)

オンライン申請の特則

成年被後見人の同意書、被保佐人の就任承諾書、保佐人の就任承諾書を添付書面情報として、マイナンバーカードor特定認証業務電子証明書で電子署名付与して申請した場合は、印鑑証明書の添付は不要となる(商登法102条2項、3項2号・3号、103条)。

成年被後見人が辞任する場合

(成年後見人が辞任の意思表示)

1.成年後見人の辞任届
2.成年後見登記事項証明書
3.成年後見人の個人印鑑証明書
*登記所に印鑑を提出している会社▷辞任する成年被後見人が当該印鑑を提出している者である場合のみ
*登記所に印鑑を提出していない会社▷辞任する成年被後見人が会社の代表者である場合のみ

(成年被後見人が辞任の意思表示)

1.成年被後見人の辞任届
2.成年被後見人の印鑑証明書
*登記所に印鑑を提出している会社▷辞任する成年被後見人が当該印鑑を提出している者である場合のみ
*登記所に印鑑を提出していない会社▷辞任する成年被後見人が会社の代表者である場合のみ
*ただし、辞任届の印鑑と当該被後見人が登記所に提出した印鑑とが同一であるときは、印鑑証明書不要

(被保佐人が辞任の意思表示)

1.被保佐人の辞任届
2.被保佐人の印鑑証明書
*登記所に印鑑を提出している会社▷辞任する成年被保佐人が当該印鑑を提出している者である場合のみ
*登記所に印鑑を提出していない会社▷辞任する成年被保佐人が会社の代表者である場合のみ
*ただし、辞任届の印鑑と当該被後見人が登記所提出印鑑とが同一であるときは、印鑑証明書不要

在任取締役等が成年後見開始の審判等を受けた場合

委任の終了事由に該当するため、当該取締役等は、後見開始の審判を受けたことにより退任する(民法653条)。

なお、保佐開始の審判であれば、委任の終了事由には該当しないため、当該取締役等は当然にはその地位を失わない。

第5 社外取締役を置くことの義務付け

概要

監査役会設置会社(公開会社であって、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならないとされた(法327条の2)。

経過措置

改正法の施行の際現に上記に該当する株式会社については、法327条の2の規定は、改正法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会終結の時までは、適用しないとされた。

したがって、該当する株式会社は、改正法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を選任すれば足りる。

登記

社外取締役の就任に係る登記の手続については、従前と同様であり、取締役の就任の登記をするにとどまり、社外取締役である旨の登記はしない。

(筆者注:社外取締役である旨の登記が必要とされる場合は、「特別取締役による議決の定めがある場合」「指名委員会等設置会社」「監査等委員会設置会社」のときであるため)

第6 法人登記事務の取扱い

相互会社

相互会社は、組織変更株式交付ができることとされた。組織変更株式交付の第2の取扱に加え、組織変更の手続も同時に行われる(保険業法96条の9の2から96条の14)。

一般社団法人及び一般財団法人

第4に記載した取扱いと同様。

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